「第54回 放射線環境・安全に関する研究会」印象記
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2024年10月25日、自然科学研究機構 核融合科学研究所のセミナー室において、放射線やエネルギー分野において昨今出版された以下の書籍等の内容が放射線環境・安全カウンシルのメンバーによりレビュー形式で紹介された。
「原発と放射線被ばくの科学と倫理」、「作られた放射線「安全」論」、「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2024年版)」、「間違いだらけのエネルギー問題」、「生活環境放射線(国民線量の算定)第3版」、「図解ポケット脱炭素社会のリアルを知る環境とエネルギー政策がよくわかる本―ゼロ炭素は可能か?−」
各書籍等についてその内容が以下のように紹介された。
「原発と放射線被ばくの科学と倫理(2019)」、「つくられた放射線「安全」論(2021)」:島薗進著、専修大学出版局
本書では福島原発事故後における公衆被ばく限度に関わる議論の過程における安全、安心についての議論やリスクコミュニケーションを推進する過程における問題点などを挙げている。放射線安全の研究や業務や携わるものが住民等への情報の提供、説明などをする場合に心すべき問題点を理解し、自分の言葉で述べることが大切になる。未曽有の自然災害が想定される環境にあって過去に学ぶ姿勢が重要である。 紹介者:宇田達彦
「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について 第21版(2024年)」経済産業省 資源エネルギー庁
当該書籍は、原子力発電所の操業等によって発生した高レベル放射性廃棄物の処分に関する情報提供の媒体として、資源エネルギー庁が2003年より発行している冊子である。高レベル放射性廃棄物はその高い放射線量のため、極めて長期に渡り我々の生活環境から遠ざける必要があり、その一つの方法として地下深くの安定した地層中に廃棄物を不可逆的に埋設する「地層処分」が国際的な議論によって主流となりつつあった。一方で近年では将来的な科学技術の進展への期待や倫理・哲学的意見も相まって、地層処分を前提に進めつつも将来世代が最良の処分方法を選択できる余地を残す「可逆的な地層処分」も議論、検討が進められている。
地層処分を実施するには、技術の開発のみならず処分場のサイト選定方法、各国の法制度、地域との連携、安全確保への取組みなどを継続的に実施していく必要がある。この書籍では原子力発電を行ってきた欧米主要8か国(フィンランド、スウェーデン、フランス、スイス、ドイツ、イギリス、カナダ、アメリカ)における高レベル放射性廃棄物の発生状況と処分方針、処分計画と技術開発、処分事業の実施体制と資金確保、処分地選定の進め方と地域振興、情報提供とコミュニケーション、を図や写真を用いて図鑑的に分かり易く解説が為されている。その他、情報は限定的ではあるが、韓国、中国、ロシアにおける地層処分や日本における地層処分の取組みについても概説が為されている。 大量の放射性廃棄物が既に世界的に存在し、原子力発電を継続することで今後もその量は増加していくことを勘案すると、放射性廃棄物の処分問題については全世界の人々が処分方法の概要と状況を把握しておくべきであると考える。この書籍は専門家でなくても地層処分についての世界の状況が理解できるよう工夫されているので、ぜひご一読されることをお薦めする。
紹介者:佐瀬卓也
「間違いだらけのエネルギー問題」山本隆三著、株式会社ウェッジ、2023.
概要:エネルギー全般に造詣の深い著者が、エネルギー問題は、供給(資源国)の問題、経済性、安全保障、環境問題、温暖化(CO2 排出)問題等が絡み、単純に割り切れない課題であることを縷々述べながら、各種のエネルギー(再エネ、天然ガス、石炭、水素、原子力など)諸元について、その特質と利点・欠点を数値でもって比較し、結論として、原子力エネルギーと水素エネルギーに依存するのが良いとしている。さらに、将来的には、水素エネルギーが有望であり、そのためには、先進諸国に先んじて技術の開発と輸送力の充実が重要と述べている。また、わが国がエネルギーの選択で考慮しなければならないのは、@供給の安定化、A価格競争力、B気候変動問題であるが、その際、@経済成長、A収入、B雇用の3点の見極めが重要としている。
紹介者:下道國
「生活環境放射線(国民線量の算定)第3版」令和2年11月、原子力安全協会
本書は放射線に関するリスクコミュニケーションで一般国民がどれくらい被ばくしているかを説明するためによく用いられる数値が記載され、その詳細についてもよく理解しておく必要がある。今回の第3版は平成23年に発行された「新版
生活環境放射線(国民線量の算定)」(第2版)の改訂版であり、東京電力福島第一原子力発電所事故後の影響を含められたこと、医療放射線による被ばく量が変更になったことが大きな変更である。
第1章では新たに放射線防護の基本的な考え方について解説され、第2章の自然放射線源による線量は第2版と比べて大きな変化はない。第3章の職業被ばくと第4章の医療被ばくについては新しい情報に基づき再評価され、特に医療被ばくが年間3.87mSvから2.6mSvへと小さくなった。これは検診による被ばくが増えたがX線撮影による被ばくが大きく減少したことによる。なお、医療被ばくについては数値の変更はないがUNSCEAR
2020/2021報告書の内容により追記等された増補版が今年の3月に出されている。
紹介者:古田定昭
「図解ポケット脱炭素社会のリアルを知る環境とエネルギー政策がよくわかる本―ゼロ炭素は可能か?−」関貴大著、秀和システム2023年7月
本書は、環境とエネルギー政策の基本的事項、日本・世界の動向、エネルギーと地政学、そして各エネルギーの概要について12章から構成されている。最終章には、「持続可能な社会に向けて」として、SDGs(持続可能な開発目標)についての説明やESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)、サステナブル経営、電気自動車の導入といった二酸化炭素排出低減のための方策等にも触れている。昨今注目されている環境と経済の調和のとれた社会について考えるための入門書として最適であるとともに、本書を通して、長期的にこのような視点で経済にも関心を向けることの大切さを学ぶことができるだろうとのことであった。
紹介者:横山須美
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