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「第57回 放射線環境・安全に関する研究会」印象記

 「高精度計測技術に基づくトリチウムの環境・生物影響」という演題で弘前大学 被ばく医療総合研究所 赤田尚史教授による講演が 2025年6月25日ナディアパーク デザインセンタービルの名古屋市市民活動推進センター会議室で行われた。講演では被ばく医療総合研究所について紹介され、放射化学・生態影響評価部門の活動、高度被ばく医療支援センターとしての取り組みや有機結合型トリチウムの分析について紹介された。
 被ばく医療総合研究所では、計測技術・物理線量評価部門、リスク解析・生物線量評価部門、放射化学・生体影響評価部門、国際連携・共同研究推進部門、被ばく医療学部門の5部門から構成され、外部・内部被ばく線量評価、染色体解析・生物学的影響関する研究、放射性核種の環境動態、放射化学、被ばく医療などの基礎研究や関連する技術・手法の開発を進めている。演者が属している放射化学・生態学部門では、バイオアッセイと内部被ばく評価、トリチウム環境動態と生体影響、生体試料を対象とした重金属分析と環境保健科学、同位体を用いた化学物質環境動態、原子力施設周辺における放射生態学に関する研究が行われている。
 その中でトリチウムは福島第一原子力発電所からの処理水放出や今後の核融合施設での大量利用として着目されている。特に挙動が重要である有機結合型トリチウムの分析では、有機物を燃焼して炭素を取り出す必要があり文部科学省マニュアルでは石英管内で火をつけて燃焼するが、放射性物質の取り扱い施設を含む管理区域内では原則として火気厳禁であるため、同様な実験が実施できないのが現状である。演者らはこの問題を解決できる火気を使用しない「OBT分析用有機物燃焼システム」を開発し、様々な環境試料を対象とした分析を進めている。
 演者らの活動は単に研究だけにとどまらず、福島第一原子力発電所事故で多くの住民が避難した福島県浪江町の支援活動として、学生を含めたリスクコミュニケーションや健康支援活動などが行われているとのことである。青森県内には再処理施設やウラン濃縮施設などがあり、周辺への影響が大きい原子力施設の事故はあってはならないが、正しい科学的な情報を伝える日ごろの情報開示や活動が重要であるとの議論があり研究所の更なる活動に期待したい。