「核融合発電:その仕組みと実現までの展望,国内外の進展状況」
 核融合科学研究所/総合研究大学院大学 教授 高畑一也


核エネルギーの利用には, 核分裂反応を用いた原子力発電の他に,核融合反応を用いた核融合発電がある。ただし,原子力発電と異なり,現在は実用化に向けた研究開発段階にあり実用化はされていない。本講演では,核融合発電の仕組み,放射線や放射性物質に対する安全性,核融合発電の研究開発はどこまで進んでいるのか,いつ実現しそうか等について説明する。

<講義概要>
1.核融合反応の原理
核融合は恒星の中で自然に起こっていることであり,宇宙において特別なことではない。太陽も核融合で光り輝いている。太陽の中心部では,4個の水素原子核が融合し,1個のヘリウム原子核に変換している。そのとき0.7%の質量が消失し,エネルギーが発生する。この太陽の核融合反応を地上で再現できないか? 残念ながら,太陽の核融合反応は地上で再現してもエネルギー源になり得ないことが分かっている。私たちがエネルギー源にしようとしている核融合は,水素の同位体である重水素や三重水素,ヘリウムの同位体であるヘリウム3 などを燃料とした反応である。

2.核融合発電の仕組みと特⾧
核融合発電で用いる反応で,最も実現が早いとされるのは,重水素(D)と三重水素(T)を融合し,ヘリウムと中性子を生成する反応(D-T 反応)である。この時,核融合発電の実質的な燃料資源は,水にも含まれる重水素と市販電池にも使われているリチウム(核変換で三重水素を作る)となる。これらの地球上の資源量は人類の文明を1 万年以上維持できるほど莫大である。また反応時に二酸化炭素を発生しない。このような特⾧を持つ核融合発電であるが,いまだ実現していないのは,反応を維持するための条件が厳しいためである。その条件の一つが,1 億度のプラズマを作り,その温度を維持することである。プラズマとは,高温のガス体であり,原子から電子が剥ぎ取られ,イオン(原子核)と電子が自由に動き回っている状態である。物質の第4の状態とも言われる。超高温のプラズマの閉じ込めは,金属の容器では不可能で,超伝導コイルを用いた目に見えない磁場の容器が必要となる。この超伝導コイルで囲まれたプラズマを閉じ込める装置を,「核融合炉」と呼ぶ。核融合炉には,中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換し,冷却材に受け渡す役割を持つ「ブランケット」と呼ばれる機器も内蔵する。ブランケット内部にはリチウムを置き,三重水素の生産も行われる。外部に取り出された熱エネルギーは,蒸気タービンを用いて電気エネルギーに変換される。この部分は火力発電と変わらない。

3.安全性
核融合反応は連鎖反応ではないため,原理的に暴走することはない。制御しないと止まる受動的安全性が備わっている。しかし放射線リスクはゼロではない。反応に使われる三重水素(トリチウム)が放射性物質であり,反応生成物の中性子は炉内では放射線であり,中性子照射を受けた炉内機器は放射化物となる。また,炉内機器の冷却が停止したときの,崩壊熱による温度上昇も無視できない。核融合炉におけるこれらのリスク評価が今後重要な課題となる。

4.核融合研究の歴史と現状
核融合反応は1930 年代に発見されていたが,発電を目標とした研究が始まったのは1950 年代になってからである。その後,様々な形の磁場の容器が提案され,実験が行われた。現在は,磁場の容器としてトカマク型が主流となっている。1990 年代には,米国と英国のトカマク型装置で核融合によるエネルギー発生が確認された。現在,フランスに核融合出力50 万キロワットを発生するITER(イーター)が,35 ヶ国の共同で建設中ある。2025 年からの運転開始を目指していたが,部品の応力腐食割れが見つかり,補修のために,運転開始が2034 年に遅れた。一方,現在,世界中で45 社の核融合ベンチャーが立ち上がっており,トカマク型に限らずステラレーター型や逆転磁場配位型,レーザー核融合など,様々なアプローチで先進的な実験装置が開発されている。そして,これら企業の多くは,2030 年代に発電パイロットプラントを建設するロードマップを公表し,巨額の民間投資を集めている。これまで公的プロジェクトが主導してきた核融合開発だが,民間が参入することで思いも寄らないブレークスルーが期待される。

5.将来展望
核融合開発に対する日本の国家戦略では,2045 年までに原型炉(発電を実証する最初の装置)を完成させ,実用化への準備を完了させるとしている。しかし,ITERの運転開始の遅れが,これにどの程度影響を与えるかが懸念される。一方で,核融合ベンチャーのほとんどが, 2030 年代末までに核融合による電力供給が実現できると予測している。各国政府もこの状況を無視できず,政府が核融合ベンチャーに投資を始めた。核融合発電を最初に実現するのは,民間ではないかという意識が政府レベルでも広がっているように思う。まだ技術的課題が多く残っている段階ではあるが,技術開発は着実に進んでいる。